障害者雇用から学ぶ組織マネジメント
「note」久しぶりに更新しました。
障害者雇用から学ぶ組織マネジメント
「note」久しぶりに更新しました。
先日、私は障害児を持つ親の集まりに参加し、以下のようなことをお話ししました。もうお一方、就労支援の事業所を担当されている「現場」のお話をしていただく先生がいらっしゃったので、そのあとを受けて、社労士的観点も踏まえてお話ししたものです。
1. 導入:私たちは「何のために」働いているのか?
「働く」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
生活のため、自己実現のため、あるいは社会貢献。人によってその答えは様々ですが、それらすべてが正解だと私は思っています。それぞれが「働く」ことに目的を持ち、意味を感じている。だからこそ毎日の仕事が楽しいとも感じるし、つらいと思うことがあっても「明日は頑張ろう」と思えるのだと考えています。
しかし、今、多くの人が日々の仕事の中で「自分の思いと何かがズレている」という漠然としたモヤモヤを抱えていらっしゃいます。例えば、「仕事へのモチベーションがわかない」であるとか、「自分のやりたいことと、会社の方向性が違っている」とか、「提案が取り上げてもらえない」「成長の機会が与えられない」「自分の貢献が正しく評価されてない」「思うように休みがとりずらい」などなど、皆さん本当に悩んでおられます。だからと言って会社を辞めるほどではないかもしれませんが、いろいろとモヤモヤと付き合っているのが今の職場の現状ではないでしょうか。
2. 「働く」の本質は、他人の脳(指揮命令)で動くこと
ここからは、法律的観点から見た「働く」とは、というお話になります。
なぜ私たちは働くことにこのようなモヤモヤを感じるのでしょうか。
私が社会保険労務士としての勉強をしていて、「このモヤモヤは、労働契約の観点から見ると、至極当然に発生するものなのではないか」と思い至りました。
民法や労働契約法において雇用契約あるいは労働契約とは、「労働力の提供」と「報酬」の取引に合意することです。労働者は、一定の時間、一定の場所に拘束されることによって、時間に応じた賃金を受け取ります。
さらに最高裁判例(三菱重工長崎造船所事件等)では、その労働時間について「使用者の指揮命令下にある時間」とされました。
つまり、「働く」ということは、他人の脳味噌で決められたことを、自分の身体を使って実現することなのです。
多くの労働者が工場で働く時代とは違い、頭脳労働あるいは感情労働といわれるお仕事が増えてきています。また、肉体労働者であっても、頭脳を全く使わない仕事はありません。
先ほど「自分の身体」という言い方をしましたが、労働契約で拘束されるのは手足だけではなく、「自分の脳味噌」も拘束され、他人の指示命令を受けて働かさなければならないわけです。
マルクスの「労働疎外論」も同じようなことを言っていたのかもしれませんが、まさに現代社会における「疎外」がそこに存在し続けています。
自分の意思とは異なる「他人の脳」に従う以上、ズレやストレスが生じるのは極めて必然的なことなのです。頭脳労働であれば、その矛盾は非常にわかりやすく現れます。この前提を理解することが、働くことのモヤモヤを解く第一歩となります。
その整合性を取るために、会社側は様々な工夫をしてきました。1on1ミーティングやジョブ型雇用、賃金アップ、心理的安全性の確保、リモートワークの導入、リスキリング支援などの取り組みがそれにあたると考えています。いずれも、働く人の考えていることを聞き出し、一定の方向付けをしたりモチベーションを高めたりしようとする試みです。
また、「パーパス、ビジョン、ミッション、バリュー」といった経営理念を刷新し、浸透させようとしているところも多いかと思います。これも、会社の価値観や進むべき方向性を明示し、それに合った労働者に集まってもらおうという側面を持っています。また、社内の各部署各人でベクトルがあっていないならば、それを合わせていこうという意図があります。
しかしながら、本質的な解決にはなかなかならないのではないでしょうか。なぜなら、指揮命令する脳味噌と、それを受け取り実行する脳味噌が別物だからです。これを強制的に一致させる方が無理というものであり、各人の価値観や方向性が違うことを前提としたやり方こそが本当は必要なのかもしれません。
3. 「合理的配慮」は特別な優遇ではない、究極のマネジメントである
ここで、議論を障害者雇用という場面に絞り込んでみたいと思います。今日お越しのお父さま、お母さまが一番心配されているのが、「我が子は仕事に就くことができるのだろうか、保護者がいなくなっても生きていけるのだろうか」ということかと思います。そのお気持ちにお応えするとしたら・・・という観点で、今の話を進めていきましょう。
まず、先ほどの「働く」ことの定義から考えてみます。
「他人の指揮命令に従って働く」ということは、自分のやりたいことと違うことをやらないといけないということです。
障害や脳の特性によっては、まずそれがうまく整理できない方がいらっしゃいます。「やりたくないこと」や「興味のないこと」をする理由がないからです。
また、職場によっては、一定の時間、特定の場所に行って働かなければなりません。通勤自体がとても大変であるとか、ずっと同じ場所でいることができにくいとか、それこそ障害や特性によって、それがとても難しい方がいらっしゃいます。それが障害者雇用でもあるわけです。
賃金を支払うからには、それ相応の生産性があり、職場の役に立つことが最低限必要になってきます。コミュニケーション能力も当然必要です。そこに障害がある方もいらっしゃいます。
しかし、一方で、そうした特性が「得意技」になることがあります。一定の障害も、それをカバーする何かがあれば、障害などないかのように働くことができる方もいらっしゃいます。
まさに、そのための配慮が、いま企業に求められている「合理的配慮」というものです。
これは単なる弱者への優遇ではなく、個人の特性と組織のニーズの「ズレ」を埋めるための、極めて合理的な調整作業です。本質的には、先ほどの「1on1」とか「リモートワーク」の導入と変わりません。その人の能力を発揮するために必要なコミュニケーションをとり、それに合わせた対応をしているだけのことです。
素晴らしい記憶力を持ち、コンピュータを触らせたらものすごい集中力を発揮するという特性を持つ方が、その特性を生かす職場に配属されたとしたら、それは、究極の「ジョブ型雇用」ともいえるわけです。
「合理的配慮」については国から指針が出され、具体的な事例が一覧表として示されています。例えば発達障害を持つ人に対しては、
・業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
・業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと。
・出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。
・感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと。
などが例として示されています。
その基本的な考え方は、以下の通りです。
1 合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のものであること。
2 合理的配慮の提供は事業主の義務であるが、採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、合理的配慮の提供義務違反を問われないこと。
3 過重な負担にならない範囲で、職場において支障となっている事情等を改善する合理的配慮に係る措置が複数あるとき、事業主が、障害者との話合いの下、その意向を十分に尊重した上で、より提供しやすい措置を講ずることは差し支えないこと。また、障害者が希望する合理的配慮に係る措置が過重な負担であるとき、事業主は、当該障害者との話合いの下、その意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講ずること。
4 合理的配慮の提供が円滑になされるようにするという観点を踏まえ、障害者も共に働く一人の労働者であるとの認識の下、事業主や同じ職場で働く者が障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要であること。
お互いの理解とそのための話し合いを重要視し、本当に必要かつ可能な配慮とは何かを双方が考えるよう求めているといえます。
つまり、私に言わせれば、障害者雇用とそのための「合理的配慮」は、特別なことをやれと言っているのではなく、「他人の指揮命令によって働く際に必要な配慮」という普遍的なことをやれと言っているだけなのです。「障害がある人だけ特別扱い」ではなく、組織の中で働く人が働きやすくするための配慮と同じであり、そうすることであらゆる人が働きやすくなる職場づくりにつながります。究極の職場マネジメントの一場面と考えるべきではないでしょうか。
4. 企業が障害者を雇う理由
企業側から見ると、障害者を雇う理由は大きく3つあります。
1つ目は「法律で決められているから」。法定雇用率というものがあり、現在は2.5%(従業員100人に2.5人以上)です。重度の障害者は1人を2人と数えたり、短時間労働者は0.5人と数えたりするルールがあります。これをクリアするために「特例子会社」という仕組みもあり、親会社ではなく子会社で雇うことで、環境を整えたり特定の業務(スキャン業務やシュレッダー業務など)を切り出したりしています。
2つ目は「助成金などのお金がもらえるから」。法定雇用率を達成していない企業はペナルティ(納付金)を払わなければなりませんが、達成している企業には調整金や報奨金が出ます。また、設備を整えるための助成金もあります。これは企業にやる気を出させるための仕組みです。
3つ目は「その人の能力が必要だから」。これが一番本来あるべき姿です。それぞれの場所にニーズがあり、それを満たしてくれる働き手がいれば雇用は成立します。 ダイバーシティ経営と言われますが、似たような人たちだけの会議では時代遅れです。障害をお持ちの方が経営に入ったり、特定の業務(例えば正確な在庫管理など)で高い能力を発揮したりすることは、会社にとってプラスになります。 最近流行りの「ジョブ型雇用」は、特定の仕事に対して対価が決まる働き方ですが、これは特性がはっきりしている方に合っているかもしれません。逆に「メンバーシップ型」は、何にでもなれる(iPS細胞のような)人が向いています。
特例子会社の事例として、大手電機メーカーの子会社ではパソコンのセットアップや書類のスキャン、NTTデータの子会社では名刺作成やシュレッダー業務、簡易印刷など、企業グループが必要とする特定の機能を専門的に担っています。
5. 結論:「お互いさま」の精神が、最強の組織を作る
障害者雇用は、よく次のように誤解されます。
例えば、「障害者がいるから特別な配慮をしなくてはならない」であるとか、「企業の社会的責任なのだから、善きこととして何かをしないといけない」とか。
一方で、「特定の個人への配慮を推し進めると、周囲から不公平だとの声が上がる」という現場の意見も当然のように出てきます。
しかし、障害者雇用は決してそのようなとらえ方で終わってしまってはいけないと思っています。むしろ、組織の当たり前を見直すための、またとないチャンスとは考えられないでしょうか。
私たちは誰しも、病気や事故、あるいは加齢によって、明日にも「当事者」になる可能性があります。そのとき、個人の「欠点」とみて排除する組織と、全員の個性を「足し算」して総和を最大化しようとする組織、どちらが強いかは明白です。
特定の個人への配慮が「不公平」だと言われる職場は、まだ過渡期にあります。本来、合理的配慮とは「その人が能力を発揮できる環境を整える」という当たり前のプロセスに過ぎません。障害者雇用を通じてこの感性を磨くことは、組織全体のレジリエンス(回復力)を高めることに直結します。
そのような組織になるために、そこに当たり前に障害者がいる状況ができるよう、国も施策を進めていると私は理解しています。
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お話しした内容は以上となります。ご異論おありの方もいらっしゃるかもしれません。ぜひ議論させてください。
本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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